第19話 たった一人の人間
「ちょっと、あれ! やばくない?」

 リースが指を差し、焦ったような声をあげる。

「そうね……」

 ここは“クレスト”。オーディアス卿が納める町。オーディアス卿と同じように、和人(イニシオ)撲滅を望む住人たちが多く住む町だ。
 ナギサ達がクレストに着いた時には、町の中心に住人たちが集っていた。
 リースが指を差した先、町の中心には、見上げなければならないほどの、高い処刑台があった。処刑台の中心には、ロープが輪っかにくくりつけてある。人間の首が吊るせるように。

「さあ! 皆さん! あの忌々しい破壊者(ネメシス)が死ぬところを! 今ご覧にいれましょう!」

 処刑台の上に立ったオーディアス卿が、声を張り上げた。「破壊者(ネメシス)はこの者です!」と、手をかざした先には、ヴェンがいる。

「そうだ! 早く死んじまえ!」

「この疫病神!」

 処刑台の周りに集まった町の人々が、好き勝手にヴェンに向かって罵声を浴びせる。その声はどれも、ヴェンの死を望むものや、ヴェンを忌み嫌うものばかりだ。町の住民達の罵声を聞いたナギサは、「ひどい……」と呟いた。
 「早く行け」とヴェンの背中を押すオーディアス卿の様子を見たナギサは焦った。早くヴェンの元に行かなければ!

「通して下さい!」

 ナギサとリースは必死に声を張り上げ、人の波をかき分け、処刑台に近づこうとする。しかし、興奮した住人たちにはナギサとリースの声は届かない。

「手荒だが……私が道を作ろう」

 「破!」と翡翠が数珠を胸の前でかざすと、強い風が吹き、左右に住人たちがよろけ、一本の道が出来た。その道をナギサ達は駆け抜ける。
 はしごを上り、処刑台の上に立ったナギサの前に、オーディアス卿が立ちはだかる。

「……救世主(メシア)様、ご自分の立場をお分かりか?」

 ナギサと対峙したオーディアス卿は、眉をひそめ不快そうにした。

「貴方様は破壊者(ネメシス)を倒すべき“使命”をお持ちの筈。その救世主(メシア)様が、破壊者(ネメシス)を救おうとするとは……ご自分の使命をお忘れか?」

「確かに私は救世主(メシア)だわ。……けれどその前に、“ナギサ”という一人の人間です」

 ナギサはオーディアス卿の後ろに立っているヴェンを見ながら、話を続けた。

「それを、そこにいる、貴方様の後ろに居る、ヴェンに教えてもらったの」

 ヴェンが居なければ、皆が求める“救世主(メシア)”として生きていたかもしれない。とナギサは思いふける。

「私のボディーガード、ずっとしてくれるんでしょう?」

「そうでしょう? ヴェン」とナギサはヴェンに話しかける。俯いたままで、どんな表情をしているか分からないけれど。ヴェンの心に届くように。