第1話 救世主の誕生

「汝、ナギサに救世主(メシア)の役目を与える」

 神父の声が教会内に響き、ピンとした澄んだ空気が張った。
神父の前に跪き、祈るように両手をぎゅっと組み合わせている女性が口を開く。

「はい、承りました」

 教会のステンドグラスから漏れた光りが差し、女性の胸まである、前で編まれた二つの三つ編みが銀色にきらきらと光り、なんとも言えない神秘的な雰囲気を醸し出した。
 長いまつ毛で隠された青い瞳の中に、司祭を映し出している。

「20歳になった貴方には、これか救世主(メシア)としての修行の旅に出てもらいます。いいですね?」

 「はい、分かりました」

 神父の言葉に、ナギサはこくりと頷き、立ち上がった。

「救世主(メシア)に神の御加護があらんことを!」

 神父の言葉が教会内に響く。ナギサは神父の言葉を聞いてから、くるりと踵を返し、新婦に背を向けた。
 ちょうどナギサが身廊を歩き出したその時、参列者の一人がナギサに言葉をかけた。

「どうか神の御加護がありますように、救世主(メシア)様」

 どうか神の御加護がありますように。一人、また一人とナギサに言葉をかけた。ナギサは声をかけられる度に軽く会釈をして応えながら、身廊を歩き進んだ。
 声をかけられる度にナギサは実感した。どうやら自分は世界を救う、救世主(メシア)になってしまったようだ、と。