第5話 森の中で
ナギサ達は、森の中を歩いていた。森の中は氷のように空気が澄んでいて、気持ちよかった。
覆い茂る木の間から、太陽の光が漏れ、神秘的な雰囲気を醸し出す。
「出雲さん、元気かな?」
前を歩くリースが、くるりと振り向いた。
「そうね。黎明の里に行くのも久しぶりだものね」
「あら?」とナギサは首を傾げる。
「でも、リースは出雲様にケーキを届けに行っているのよね?」
「そう! でも、出雲さんにケーキを届けるのは久しぶりなの」
「で、今回は、これ!」
じゃーん! とリースが右手に持っていたケーキ箱を開くと、小さなブルーベリーと大粒の苺とホイップクリームでデコレーションされたタルトが飛び出してきた。1ホール分あるタルトは、木の隙間から漏れ出た光を浴びて、きらきらと輝いている。
「げ、甘そう」
タルトを見た瞬間、ヴェンの顔が歪む。
「うるさい! 激辛星人にはケーキの美味しさが分からないのかしら?」
ヴェンの言葉に反応したリースが、びしりと言葉を投げた。
「ヴェンは甘いものが苦手だものね」
「いいもん。別にヴェンに食べてもらわなくても。出雲さんとナギサちゃんに食べてもらうんだから」
リースは拗ねた様子で箱を閉じ、くるりと身を翻して前を向いた。
「それに、ケーキが大好きなお弟子さんがいるんだって聞いてるわ」
そのお弟子さん、あたしのケーキを心待ちにしてくれているそうなの。と、リースは誇らしげだ。その時。人1人分だろうか。大きな狼が、リースの前に飛び出してきた。
「きゃあ!」
「「リース!」」
ナギサは腰にかけていたレイピアを、ヴェンは腰にかけていた2つの刀を抜き、リースの前に出て狼に立ち向かおうとした。
「急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!」
狼の前に5つの角を持つ星、五芒星(ごぼうせい)が狼とリースの間の空間にふわりと現れ、五芒星からの光が狼に放たれた。光を受けた狼は、キャインと鳴き声を上げ、リースの前から走り去った。
白い生地に黒い花の模様が入った着物を着た、首から下げた珠々の先を右手に持った青年が立っていた。青年の顔は涼しげに整っており、まるで人形のようだ。
「あの、ありが……」
リースが「ありがとう」と言い終える前に、青年は後ろで1つ結びにした翠の長い髪をなびかせ、くるりと身を翻した。そしてそのまま、スタスタと去って行ってしまった。
「何あれ。嫌な感じ!」
「そうは言うが、アイツのお陰で助かったじゃねェか」
「それはそうだけど、お礼ぐらい言わせてよね!」
「今の人。着物を着ていたわ。もしかしたら、黎明の里(れいめいのさと)に居るかもしれない」
その時にお礼を言ったらどうかしら?とナギサはリースに提案する。
「……そうね。そうする」
ナギサの提案に、渋々と言った様子でリースは承諾した。
「楽しみね」
のんびりとした様子で、ナギサはにっこりと微笑んだ。