第2話 伝説
月が青に染まった時、青い目を持って生まれた者が世界を救う。月が赤に染まった時、赤い目を持って生まれた者が世界を滅ぼすであろう。
「なーんて、伝説があるけど、本当なのかしら?」
ナギサの隣を歩く少女が訝しげに首を傾げた。少女が歩く度に、くるくるとカールがかかったふわふわの茶色の髪が揺れる。
「いやね。リース、その伝説の救世主(メシア)がここにいるじゃない」
「ナギサちゃんが“救世主(メシア)”、ねぇ」
確かにナギサちゃんの目は「青い」けど、私も同じよね。と、リースと呼ばれた少女は、ナギサの瞳をじとりと覗き込んだ。
「私が産まれた時、月が青かったそうよ」
「それは何回も聞いたわ。だからと言って、そんなおとぎ話のような伝説、信じられない」 そもそも、本当に“破壊者(ネメシス)”なんているのか疑問だわ。青い目もそうだけど、「赤い目を持つ者」なんて、たくさんいるじゃない。と、リースは続けた。
「あら、そうね。それは私も同じだけれど。しきたりに従って、今日から“救世主(メシア)”としての修行をしなければいけないようね」
「それも、護衛付きでね」
「その救世主(メシア)の護衛が、こんな可愛らしい女の子でいいのかしら?」
「可愛らしくても、腕は確かなんだから!」
リースは背中に背負っている弓袋から1本の弓を取り出して弓を引き、えい、と弓を放つ真似をしてみせた。そうね、確かに。とナギサが微笑む。
「それに。あと一人、護衛がいるわ」
「えぇ〜ほんとにあいつも連れていくの?」
リースは嫌そうに顔をしかめたが、ナギサは対照的に、ふふ、と楽しそうに笑った。