第25話 一つの決意
ヴェンと別れた後、前から小走りで翡翠の元へ向かってくるリースが見えた。
「翡翠さん、あいつは?」
翡翠の元へやってくると、口を開くとすぐに、リースは翡翠にヴェンの様子を聞いた。
「ヴェンは、お前たちに合わす顔がないと言っていた」
「全く……あいつ、まだそんなこと気にしてんの」
翡翠は淡々とヴェンの様子をリースに伝えた。翡翠の言葉を聞いたリースは、呆れたようにはあ、と息を吐く。それから、考え込むように、地面をしばらく見つめた後、おもむろに口を開いた。
「……ナギサちゃん、あいつと会う前はなんていうか、笑ってたけど、どこか冷たくて、寂しそうだったんです」
リースの目線がどんどん下へ下がっていく。
「でも、悔しいけど。あいつと会ってから、寂しそうじゃなくなった。冷たい冷気が取れたみたいな……ナギサちゃん、心から笑うようになった。分かるんです。ナギサちゃんを一番近くで見てきてから」
リースがどこか悔しそうで、それでいて嬉しそうな、複雑な表情で言葉を紡ぐ。それを真剣な表情で、翡翠はただ黙ってリースを見つめていた。
「あいつも、ナギサちゃんと居ると、幸せそうですし。あーあ、さっさと素直になればいいのに!」
半ばやけくそのように、吹っ切れたように、リースは強く言葉を紡いだ。その様子を見ていた翡翠は、一つの疑問をリースに問いかける。
「お前は、ヴェンには幸せになってほしいのか?」
「そう……ですね。ヴェンというか、ナギサちゃんに、ですけど。だって、ヴェンと居ると、ナギサちゃんは幸せそうですし?」
ナギサが幸せになるためにはヴェンが必要。リースはそう言いたいようだ、と翡翠は気づく。
「……そうか、分かった」
「? 翡翠さん?」
リースのために、今の自分に出来ること。翡翠はそれが分かってしまった。それを実行できるかどうかということも。
「私が術を使えなくても、術師ではなくなっても、それでも、お前は私を必要としてくれるか?」
「もちろん!」
翡翠の言葉にリースは即答で答える。当たり前じゃないか。翡翠は、そう言われているような気がした。
「それがどうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない」
翡翠はリースににこりと笑いかける。一つの決意を胸に抱いて。